コラーゲンという言葉が日常生活のなかにもずいぶん浸透してきました。化粧品や健康食品のコマーシャルで、コラーゲンが美容と健康にいいということは誰でも聞いたことがあるのではないでしょうか。コラーゲンにはどこまで期待できるのか。30年以上もコラーゲンを研究してきた、榎木義祐医学博士にお話を伺いました。
【記者】
先生は、コラーゲンが持つガン抑制効果の研究では、第一人者として知られていますが、それはご自身がガンになられたことと関係があるのですか。
【榎木】
いえ、私がコラーゲンとガンの研究を始めたのは、自分がガンにかかるよりずっと前のことです。1965年頃、細菌に含まれる毒素に抗ガン作用があることが知られていたのですが、毒性を下げると効果も下がってしまうので、実用には向きませんでした。そこで私は、細菌内毒素の中のタンパク質と同じように、熱に強く、糊の性質を持つコラーゲンに注目したんです。実験の結果、やはりコラーゲンには抗ガン作用があることが判明しました。私がガンにかかったのはその後です。
【記者】
その時のことを、少しお聞かせください。
【榎木】
私は1988年に下咽頭ガンになり、声も出なくなりました。1ヵ月の放射線治療の後、自分の実験結果を信じて毎日10gのコラーゲンの粉末を飲み続けたところ、約4ヵ月後にはほとんど回復したのです。再発の懸念もあったので、その後数年間は1日5g~10gのコラーゲンを摂り続けました。その結果、15年後の現在もガンは再発せず、まったくの健康体です。ガンは5年以上再発しなければ、克服したと考えられます。
【記者】
ガンと診断されたときはショックを受けられたでしょう。
【榎木】
体の不調に気付く少し前から「研究したい、仕事をしたい」という異常な衝動があったのを覚えています。ガンと診断されたときには、「短命な天才というのは、こういう衝動から生まれるんだろうなぁ」なんて考えてたんですよ(笑)。
【記者】
無意識にでも死を感じると、自分を高めたいという欲求が強くなるのかもしれませんね。
【榎木】
ガンが治ったときには、そういう衝動も消えていましたけどね(笑)。結果的に自分の研究が自分の命を助けてくれたという、まれな幸運に恵まれたことに感謝しています。
榎木 義祐(えのき よしすけ)
1932年、岡山県生まれ
大阪医科大学卒業後、同大学博士課程終了
医学博士。
日本アレルギー学会評議員。
榎木医院院長。
【記者】
コラーゲンは、どんなガンに効果があるのですか。
【榎木】
私の患者さんに対してコラーゲンを勧めた結果、消化器ガン、喉頭ガン、乳ガン、肺ガン、前立腺ガンなどに対する効果がありました。
【記者】
ガン以外にも様々な効果があるようですが。
【榎木】
それについては、私も予期していなかったので驚きましたね。コラーゲンを勧めた患者さんから、「関節の痛みがなくなった」「シワやシミが薄くなった」「肌にツヤが出てしっとりしてきた」「薄かった髪が増えてきた」「白髪が減った」「骨密度が上がった」「アトピー性皮膚炎が治った」などの報告が次々と寄せられたんです。コラーゲンが肌や髪、関節などの様々な症状を解決する手段になりうるということは、私が患者さんからの報告で教えられたことなんです。体内の老化したコラーゲンが若くなることによって、体全体が若返るような感じですね。
【記者】
先生もずいぶんお若く見えますね。
【榎木】
自分で言うのもなんですが、71歳の割にはシミやシワは少ないほうだと思います。同窓会で「おまえ、カツラなのか」と聞かれたこともありました(笑)。
【記者】
食べたコラーゲンが体内でどのように働くのか、簡単に教えてください。
【榎木】
よく誤解されていますが、食べたコラーゲンがそのまま体のコラーゲンと入れ替わるということはありません。確かに食べたコラーゲンの一部は、消化されて人間用のコラーゲンに組み替わっているでしょう。ところが、コラーゲンの入れ替わりの周期は、他のタンパク質に比べてとても遅いのです。コラーゲンを食べた効果が短期間で現れるのを考えると、コラーゲンの生理作用は別のところにあると考えるのが自然です。
【記者】
それはどこにあるのでしょうか。
【榎木】
コラーゲンの分子は3本の線維が絡まった形をしています。1本の線維は約1,000個のアミノ酸がつながってできています。体内で消化されると、このアミノ酸がバラバラになるのですが、一部は完全に消化されず、高分子のまま腸から吸収されます。このうちの「特定の配列」が体に刺激を与えるというのが、一番有力な説です。
【記者】
最近はタンパク質の分解酵素を使って、いくつかのアミノ酸の固まりに分解した低分子のコラーゲンもありますね。一般にはペプチドコラーゲンと呼ばれていますが、これはどうでしょうか?
【榎木】
コラーゲンを与えたマウスはコラーゲンの合成量が増えたのに対して、アミノ酸に分解して与えたところ、コラーゲンの合成量は増えなかったという研究があります。私の行なったガンの実験でも、アミノ酸に分解したコラーゲンは効果がなかったので、低分子化はしないほうが良いと思います。
【記者】
】以前に比べるとコラーゲンの種類もだいぶ増えてきました。原料となる動物の種類が違うと、効果にも違いがありますか。
【榎木】
コラーゲンは動物によってアミノ酸のつながり方が少し違うので、当然、効果に違いはあります。私が行なった実験では、ガンに対して同系同種のコラーゲンは全く効果がありませんでした。つまり人間には人間のコラーゲンは効かないということです。もし人間のコラーゲンが一番効いたら、恐ろしいことになりかねません(笑)。私は実験の結果から、豚皮のコラーゲンをお勧めしています。人間に近くも遠くもないという距離がちょうどよいのだろうと思います。
【記者】
コラーゲンは食品なのに、薬のような治療効果があるのは素晴らしいですね。
【榎木】
成分が生理活性作用を持っているということは最近わかったことで、注目されています。薬と違って副作用もなく、食品として手軽に摂取できるというのは、とても大切なことなのです。コラーゲンに対する関心が高まってきているのは、喜ばしいことです。毎日の生活にコラーゲンを取り入れて、健康づくりに役立ててください。